コラム
自転車事故の慰謝料・示談金の相場はいくら? 車の交通事故の事例との違いや計算方法、弁護士へ相談すべき理由を解説
2025.02.05 慰謝料自転車事故でも自動車事故と同様に慰謝料を請求できますが、任意保険に入っていない場合は加害者との直接交渉が必要です。示談金の基準や相場、目安となる額はいくらなのか、保険会社との示談交渉の注意点、弁護士に相談すべき理由について解説します。
自転車事故の示談金の相場は? 他の交通事故との違いや弁護士へ相談すべきケースを解説
自転車事故では自賠責保険がないため、当事者同士での示談交渉が必要なケースもあります。
自転車事故の示談金は、治療費のほか、慰謝料も含みますが、慰謝料の相場はけがの程度に応じて20万円から150万円と幅があります。死亡事故の場合は、5,000万円から9,000万円といった高額な賠償額になることもあります。
自転車事故の態様により大きく異なる示談金の相場のほか、示談交渉の注意点も紹介します。
自転車事故とは
自転車事故とは自転車が絡む事故のことですが、
- ・自動車と衝突して自転車の運転手がケガを負う。
- ・自転車と自転車がぶつかりあって双方がケガを負う。
- ・自転車が歩行者に衝突して、歩行者にケガを負わせる。
- ・自転車を物にぶつけてしまい、財物を壊してしまう。
このようなパターンがあります。
一般的には、自転車の運転者が歩行者などにケガを負わせてしまう事故を自転車事故と呼ぶことが多いです。
自転車事故の特徴
自転車事故は、19歳以下の少年や65歳以上の高齢者が死傷者となるケースが多いです。
令和5年(2023年)に発生した交通事故のうち、自転車乗用中の交通事故件数は72,339件で、交通事故件数全体に占める割合は23.5%です。
交通事故件数が自動車の安全性の高まりによって年々減る中、自転車の安全性は変わっていないことから、自転車事故の割合が目立つようになっています。
そして、自転車事故の死傷者を年齢別に見た割合では、19歳以下が29.7%、65歳以上の高齢者が19.1%になっています。
自転車事故の加害者
自転車は道路交通法上、軽車両に位置づけられていますが、運転免許は必要ありませんし、自賠責保険への加入も義務付けられていません。
一定の交通ルールがありますし、ヘルメットも努力義務になっていますが、自動車とは比較にならないほど緩やかです。
そのため、加害者も運転免許を持った大人とは限らず、小学生や高校生といった未成年者である可能性も高いわけです。
加害者側が自転車保険などの任意保険に加入していない場合は、被害者が加害者に直接、損害賠償請求を行うことになりますが、満足に賠償を受けられないこともあります。
一方、自転車保険に加入していれば、任意保険会社が対応しますし、保険金から賠償金を受け取りやすいです。
自転車事故の示談とは?
自動車の場合は、自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)への加入が義務付けられていますが、自転車にはこうした制度はありません。
また、自転車保険などの任意保険に加入しているとは限らないため、被害者が加害者に損害賠償を求めるには、保険会社ではなく、加害者に直接請求しなければならないケースも少なくありません。
損害賠償請求というと、裁判所に訴えを起こす必要があるというイメージを持っている方もいるかもしれませんが、交通事故の当事者同士で話し合うことにより解決することも可能です。
そのために行う交渉を示談と言います。
自転車事故の示談の流れ
自転車事故で示談を行うための流れを見ていきましょう。
- ・警察、救急への通報
- ・治療の開始
- ・治療の終了
- ・後遺障害認定
- ・示談の開始
- ・示談成立
- ・示談金の受け取り
警察、救急への通報
自転車が絡む交通事故が発生した場合にまず行うべきことは、救急要請や警察への通報です。
自転車事故なら大した怪我ではないという油断は禁物です。
子どもが乗る自転車でも高齢の歩行者と激突して歩行者が転倒し、頭蓋骨骨折等の傷害を負って、意識が戻らない状態になったり、死亡してしまうこともあります。
歩行者はヘルメットを被っていない人がほとんどなので、転倒した場合、頭部を大怪我してしまう可能性が高いです。
救急車を呼ぶ必要がない場合でも、交通事故に遭った場合はまず警察に通報するのが基本です。
警察は現場で事情聴取や実況見分を行い、供述調書や実況見分調書、現場の見分状況書などを作成します。
これらの文書は、自転車事故がどのようにして起きたのかを客観的に示す資料になるため、その後の示談交渉でも証拠として使えるものになります。
また、加害者に連絡先を聞きそびれていても、警察から聞くことができます。
警察に通報していないと、最悪の場合、自転車事故に遭ったことを証明する手段がなく、損害賠償請求できないことも有りうるので注意しましょう。
治療の開始
救急車で運ばれた場合は、救急治療を受けて、そのまま入院となることが多いです。
退院できる場合も完治するまでは継続的な通院が必要になります。
この場合に問題となるのが治療費を誰が支払うのかです。
加害者が自転車保険に加入していれば、保険会社が直接病院に支払ってくれることが多いです。
未加入の場合は、被害者が自分の健康保険を使うなどして、立て替え払いする必要があります。そして、支払った治療費は後日、加害者側に請求する形になります。
治療の終了
治療は、被害者本人の判断で止めるのではなく、医師が完治したと診断するか、これ以上の治療効果はなく症状固定になったと診断するまでは続ける必要があります。
自分の判断で止めてしまった場合、加害者に十分な慰謝料を請求できない可能性があります。
後遺障害認定
自転車事故の怪我が重症だった上、後遺症が残る可能性がある場合は、後遺障害認定の申請も視野に入れます。
後遺症が残る場合は必ず、後遺障害認定が受けられるわけではありません。
- ・交通事故が原因の後遺症であることが医学的に証明できる。
- ・労働能力の低下や喪失が認められる。
- ・後遺障害等級に該当する。
この3つの要件に該当する場合だけです。
自動車事故では、損害保険料率算出機構が後遺障害等級の認定を行っていますが、自転車事故にはこうした第三者機関がないので、被害者自身が後遺障害の程度を主張する必要があります。
なお、加害者が自転車保険に加入していれば、保険会社に対して後遺障害等級の認定を求められるケースが多いです。
被害者が自分自身で人身傷害保険に入っている場合も同様です。後遺障害等級サポートサービスなどを利用できることもあります。
また、自転車事故が仕事中や通勤中のものであれば労災保険が使えるので、自転車事故でも後遺障害等級が受けられます。
示談の開始
交通事故の賠償金は、治療が終わり、後遺障害の有無が明らかになった段階で、全体の金額がはっきりします。その段階に達してから示談交渉を行うのが一般的です。
自動車事故では保険会社が入るため、適切なタイミングで示談が開始されることも多いですが、自転車事故では当事者同士で示談を始めてしまうこともあります。
治療の途中で示談に応じてしまうと、思わぬ後遺症が残ることもあるので注意しましょう。
示談成立
加害者と被害者が和解し、特に被害者側が治療費や慰謝料といった示談金の額に納得した場合は、示談が成立します。
示談が成立すれば、自転車事故に関して何らかの請求ができなくなるのが一般的なので、納得できる金額で示談に応じることが大切です。
交渉が決裂する場合は、裁判で争うことも検討すべきです。
示談金の受け取り
示談金の受取方法は、加害者が自転車保険に加入していれば、保険会社から一括で支払われるケースが多いです。
加害者が自分で支払うケースでは、支払い能力が十分でないこともあるので、分割払いなどの方法が取られることもあります。
自転車事故の示談で請求できる金銭の内訳
自転車事故の被害者は加害者に対して、交通事故で被った損害の賠償を請求できますが、その内訳は次のとおりです。
- ・入通院の治療費
- ・通院の交通費
- ・休業損害
- ・逸失利益
- ・慰謝料
それぞれ確認しましょう。
入通院の治療費
自転車事故で救急車で病院に運ばれた後で入院した場合は入院費などが掛かりますし、その費用は全額、加害者に請求できます。
自分で病院に行って治療を受けた場合でも、同様に治療費の請求が可能です。
通院の交通費
通院の際に交通機関を利用した場合はその費用も加害者に請求できます。
家族が自家用車で送り迎えした場合も、距離に応じた交通費という形で請求することが可能です。
休業損害
入院したり通院のために仕事を休んだらその分収入が減ります。休んだことによって、減収した場合は、その減収分を加害者に対して請求できます。
なお、給与体系によっては出勤しなくても給料がもらえる方もいると思います。そうした方は、休んでも減収にならず、休業補償の請求が認められないこともあります。
出勤途中の事故などで労災が使える場合は、休業補償給付を受けられますが、これによって補償された分は減収にならないため、加害者側に請求できないことを押さえておきましょう。
逸失利益
自転車事故によるケガの程度がひどく、自分で働いて収入を得られなくなることもあります。
この場合は、交通事故に遭わず、健康に働き続けたら得られたであろう収入分について、逸失利益として加害者に請求することができます。
慰謝料
慰謝料とは、交通事故の被害者になったことで精神的苦痛を被ったことにつき、金銭的な補償を求めるものです。
交通事故の場合、
- ・傷害(入通院)の慰謝料
- ・後遺障害による慰謝料
の2種類があります。
傷害(入通院)の慰謝料は、入院や通院の日数に応じて請求することができます。
後遺障害による慰謝料は、後遺障害等級認定を受けた場合に、等級に応じて請求できるものです。
また、自転車事故で被害者が死亡した場合は被害者の相続人などが死亡慰謝料を請求することができます。
慰謝料算定の基準
被害者が加害者に請求できる示談金は、実際の費用が明確だったり、金額を算出しやすいものがほとんどですが、慰謝料だけは一般の方には分かりにくいものです。
自動車事故の場合は自賠責基準が決められており、これをベースに任意保険基準や裁判所基準(弁護士基準)が設けられています。
自賠責基準は、自動車損害賠償保障法により定められた最低限の補償です。
任意保険基準は、自賠責基準では補えない分を補償するものですが、微増にとどまることも多いです。
そして、裁判所基準(弁護士基準)は弁護士が請求する場合の基準で最も高額になります。
自転車事故では、加害者が自転車保険に加入していれば、保険会社から任意保険基準により慰謝料の額が示されます。
ただ、保険会社と示談に安易に応じるよりも、弁護士に交渉してもらった方が示談金額が増額されるケースが多いです。
一方、自転車保険に加入していない場合は、加害者が額を計算して請求しなければなりません。
ただ、一般の方は適切な額が分からないため、弁護士に交渉して貰うべきです。
弁護士が交渉する際は、裁判所基準(弁護士基準)での請求になるのでご自身で交渉するより増額するケースが多いです。
そのため、金額に不満がある場合は、弁護士に相談することが大切です。
自転車事故の示談金の相場
自転車事故の被害者が弁護士に示談交渉を依頼した場合、示談金の相場がいくらになるのか見ていきましょう。
なお、以下では被害者に過失がないことを想定しています。被害者が急に飛び出した等、過失がある場合は、金額が減ることもあります。
比較的軽い打撲の場合
入院なしで通院1ヶ月ほどの軽い打撲の場合は、裁判所基準(弁護士基準)での慰謝料は19万円です。
これとは別に治療費、交通費、休業補償なども請求できることになります。
頸椎捻挫(むち打ち)の場合
首を痛めるなどのむち打ちになってしまった場合です。
救急車で運ばれて数日の入院後に通院を続けることになりますが、期間は長くなりがちです。
例えば、3ヶ月通院した場合の裁判所基準(弁護士基準)での慰謝料は53万円です。
骨折の場合
自転車事故でも打ちどころによっては骨折することもあります。
骨折した場合は入院が必要になりますし、通院期間も長くなります。
仮に1ヶ月入院し、通院期間が6ヶ月だった場合は、入通院の慰謝料は149万円と高額になります。
自転車事故で死亡した場合の損害賠償額の相場
自転車事故で被害者が死亡した場合の損害賠償額は、被害者の年齢にもよりますが、5,000万円から9,000万円といった高額な損害賠償請求がなされた裁判の事例もあります。
例えば、
- ・加害者が高校生で20代の被害者を死亡させた事例では、9,330万円(令和2年7月22日高松高等裁判所判決)
- ・被害者が50代の場合でも、5,438万円(平成19年4月11日東京地方裁判所判決)
といった金額になっています。
このように損害賠償額が高額になるケースが多いことから、自転車保険に加入する場合は少なくとも1億円の補償額が出るものを選ぶべきとされています。
まとめ
自転車事故の被害者になってしまった場合は、加害者が未成年でも、また、ケガの程度が軽症でも、治療費や慰謝料を請求できます。
ただ、加害者が自転車保険に加入しているとは限らず、保険会社からの保証が受けられないこともあります。
ケガの程度が重く治療費が膨らんでいる場合は、弁護士に相談し、示談交渉を依頼しましょう。
相手から示談金を提示された場合でも、すぐに応じるのではなく、相場に見合った額なのかよく検討するべきです。
金額が適切か分からない場合や不満がある場合も弁護士に相談してください。